その声はかつて電波にのり、日本人の鼓膜を毎日震わせていた。
1988年、ほとんどの日本人が聴いていたであろうその声は情報の洪水に飲み込まれ突如として死んだ。19年の歳月を経てその声がもう一度我々の鼓膜を震わせる時、その振動は記憶の中にある鮮明な像を結ぶだろう。
テクノロジーによる身体拡張をテーマにしたパフォーマンス活動や、アジア中央部に伝わる歌唱法“ホーメイ”を中心とした音楽活動で知られる山川冬樹。過去に制作した現活動のルーツともなる映像作品【the Voice-over】を2006年度バージョンとして改めて制作し、映像+サウンド・インスタレーション作品として甦らせる。また、パフォーマンスを同時に行うことにより、「声」にまつわる過去と現在のミッシングリンクを結んでいく。
『ひとつの声帯にすべての声が』 椹木 野衣 (美術評論家)
もう何年も前のこと、山川冬樹氏がまだ学生の頃、大学院の講評会で彼の映像作品「the Voice-Over」を見る機会があり、その未知の可能性に驚嘆した。いま映像作品といってしまったが、この作品に映像らしい映像はない。それでいて、この作品は驚くほど視覚的な記憶とイメージを掻き立てるのだ。コンピュータによる情報管理が一般化し、驚くほど多様な映像の洪水が大学に流入し始めて来た頃、この作品は、まずその静謐さ、限られた情報による切り詰められた手法によって見るものを驚かせた。にもかかわらず、陳腐なマルティメディア作品などよりも、この作品に備わった無限とまで形容したくなる吸引力には、到底他とは比せないものがあった。端的に言えば、この作品は「遺された声」を材料としている。そして今は亡きその声の主と山川氏は、その声を遺伝子情報により共有している。いってみれば同じ声帯を共有しているのだ。思い起こせば、自分の中のもうひとりの自分=他者である声帯をいかに活用するかという、現在の山川氏の活動に通じる声の命題は、この時に端を発していたのだと思う。声はもちろん、消化器官から心臓に至る自分の身体のパーツをあくまで物理的な器官としてオブジェ視し、誰にでもありうる可能性として拡張する山川氏の活動は、だからきわめて民主的なものである。民主的という響きが少し奇妙かもしれない。だが彼のパフォーマンスは表現的であるとか身体的というのとはちょっと違うのだ。そこで提示される声や身体の可能性は、その高まりにおいてどこかで彼に所属することを辞め、不思議と見る者との、あるいはここに居ない者との共有感を放つようになる。彼が歌う時、聞く者はなぜか他人の声を聞くのではなく、一緒に歌っているような感覚にとらわれるのだ。仮に表現という言葉を使うのだとしたら、それは誰のものでもありうる「声」が(それは声帯にすら限定されることはない)声そのものとしての可能性をみずから拡張するような行為なのだ。だからこそ、彼の声は「外」から聞こえて来るにもかかわらず、聞く者の潜在的な可能性として、いつも「内」から聞こえてくる。その声は、おそらくもう死んでしまったものや、これから生まれてくる者のもとへすら届いている。
▼日時
2006年11月25日(土) 19:00 start
26日(日) 17:00 start*
*アーティストトークあり
※開場は開演の30分前
▼入場料
前売り2.000円
当日 2.500円
▼チケット予約
プリコグ
インターネット予約はこちらから
03-3410-1816
▼場所
BankART Studio NYK / NYKホール
地図
企画・プロデュース プリコグ(小沢康夫)
主催 プリコグ
提携 STスポット
協賛 タグチ
助成 横浜市創造的芸術文化活動支援事業
協力 東京芸術大学先端芸術表現科
max/mspプログラミング:高野諭
音響設計 稲荷森 健
【ALIVE ART MATURIとは?】
ALIVE ART MATURIは、文字どおり、生きている、生き生きとしたアートの祭典です。
スタティックなエキジビションや従来のライブ・パフォーマンスではなく、たった1人のアーティストによる、パフォーマンス・アート作品を提供します。第一回は宇治野宗輝による「UJINO and The Rotators」をお届けしました。
横浜港開港150周年の2009年にファイナルを迎える予定です。
【山川冬樹 Fuyuki Yamakawa】
ホーメイ歌手/アーティスト。1973年、ロンドンに生まれる。自らの「声」と「身体」をプラットフォームに、音楽とアートの境界線をまたにかけた脱領域的活動を展開。電子聴診器をはじめとする医療機器を積極的に導入し、自らの心音を重低音で増幅、さらに鼓動の速度や強さを意図的にコントロールしながらそのリズムを光の明滅として視覚化するなど、体の内部で起きている微細な活動や物理的現象をテクノロジーによって拡張し表出する。己を音と光として環境に還元することで観客との間の境界線を消滅させてみせる。
2003年、ロシア連邦トゥバ共和国で開催された「ユネスコ主催 第4回国際ホーメイフェスティバル」に参加。コンテストでは「アヴァンギャルド賞」を受賞。肉声を電子音のように操るそのスタイルは、現地の人々に「авангардное хоомей(アヴァンガルド・ホーメイ)」と称される。同年東京で開催された「第2回日本ホーメイコンテスト」では、第1回大会(2001年)に引き続きグランプリと観客賞をダブル受賞。超絶歌唱「ホーメイ」の伝統と、現代的な柔軟性を併せ持つバイリンガルな感性で、領域を問わず様々なアーティストたちとの共演やコラボレーションも多い。2004年よりバンド「AlayaVijana」でヴォーカルを担当。現在、東京藝術大学先端芸術表現科非常勤講師。
http://fuyuki.org
【主なパフォーマンス】
2003年:森美術館開館記念イベント ハピネスアートアリーナ(東京・ソロ)
2004年:フジロックフェスティバル 04(新潟・ソロ)、sonarsound2004(東京・ソロ)
2005年:Queensland music festival(Brisbane, Australia/ソロ)、Queer Zagreb(Zagreb, Croatia/川口隆夫とのコラボレーション)
2006年: ベネチア・ビエンナーレ(Venice, Italy/川口隆夫とのコラボレーション)、2006年:フジロックフェスティバル 06(新潟/AlayaVijana)、sound/Bodies(New plymouth, New Zealand/ソロ)、8th High Zero Festival of Experimental and Improvised Music(Baltimore, USA/ソロ)など。
【主なディスコグラフィ】
AlayaVIjana III/AlayaVijana (music robita)
AlayaVijana II/AlayaVijana (music robita)
ANIMAMIMA/灰野敬二+Sitaar tah!+山川冬樹(aRCHIVE recordings)など。