障害当事者の劇場・文化施設での芸術鑑賞及び体験を充実させる施設職員とアーティストの育成プログラムの運営

障害のある人と考える舞台芸術表現と鑑賞のための講座 入門編/実践編

  • CATEGORY
  • イベント形態|オンライン配信, トーク・シンポジウム, ワークショップ
  • precogの業務|配信事業, バリアフリー, 教育普及, 人材育成
  • 表現分野|映像, 演劇, 美術
  • 開催年|2023

プロジェクト概要

近年、「ダイバーシティ」や「インクルージョン」、「合理的配慮」などの言葉が注目されています。私たちはその言葉の意味をきちんと理解できているでしょうか。言葉の先にあることを理解し、今どのような事業を立案できるのか。株式会社precogは、舞台芸術にまつわる事業を企画する制作者やアーティストの方々が共に学び考える講座として、一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONALが企画・制作した「障害のある人と考える舞台芸術表現と鑑賞のための講座」(文化庁委託事業「令和5年度障害者等による文化芸術活動推進事業」)の運営を担当しました。

◼︎precogの業務
イベント制作、バリアフリー動画配信、鑑賞サポート、ワークショップ、セミナー、人材育成、人材派遣、コミュニケーションデザイン、広報PR
◼︎プロジェクト期間
2023年8月〜2024年3月
◼︎プロジェクト体制
文化庁委託事業「令和5年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
主催:文化庁、一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONAL
企画・制作:一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONAL
運営:株式会社precog
◼︎関連リンク
公式サイト:https://theatreforall.net/lecture2023-24/

活動概要

本講座では、オンライン講座と上映会を通じ、文化芸術活動に取り組む全国の福祉施設の視察および受講生自ら企画を立てるグループワークからなる「企画実践編」 の2部門を実施しました。

■入門編

<オンライン講座>
・「芸術文化の価値とは何か」
中村美亜(九州大学大学院芸術工学研究院・教授)

・「舞台芸術系ワークショップの福祉施設での実践」
鈴木励滋(生活介護事業所「カプカプ」所長/演劇ライター)、白神ももこ(振付家/演出家/ダンサー)

・「合理的配慮から考える障害の社会モデル」
飯野由里子(東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター特任准教授)

・座談会「障害当事者の視点からいまの創造環境についてきく」
石田智哉(映画監督)、関場理生(俳優/劇作家/ダイアログ・イン・ザ・ダーク アテンド)、南雲麻衣(パフォーマー/アーティスト)、林建太(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ)

・「舞台芸術における音声ガイドについて」
鯨エマ(演劇家/NPO法人シニア演劇ネットワーク理事長/舞台ナビLAMP代表/だれでもアーティストわくわく代表)

・「障害当事者との企画を考えるということ」
牧原依里(映画作家/アーティスト/一般社団法人 日本ろう芸術協会 代表理事)

■上映会

上映作品:『音の行方』『こころの通訳者たち What a Wonderful World』『へんしんっ!』

会場:
りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 スタジオA(新潟)
協力:公益財団法人新潟市芸術文化振興財団(アーツカウンシル新潟・りゅーとぴあ事業企画部)

福岡市美術館 ミュージアム ホール(福岡)
協力:公益財団法人福岡市文化芸術振興財団

いわき芸術文化交流館アリオス 小劇場(福島)
制作協力:いわき芸術文化交流館アリオス

東京芸術劇場 シアターイースト(東京)

ロームシアター 京都 ノースホール(京都)
共催:ロームシアター京都(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)

■企画実践編

受講生企画監修:長津結一郎(九州大学大学院芸術工学研究院准教授)、文(DANCE BOX)
メンター:山川陸 (アーティスト)
企画発表会講評:佐藤拓道(〈たんぽぽの家アートセンターHANA〉副施設長/俳優) 、牧原依里(映画作家/アーティスト/ 一般社団法人 日本ろう芸術協会 代表理事)、 光島貴之 (美術家) 、森田かずよ(ダンサー&俳優)

視察研修先:川口太陽の家 工房集(埼玉県)、たんぽぽの家 アートセンターHANA(奈良県)、ぬかつくるとこ(岡山県)、リベルテ(長県県)

プロセス

■福祉領域でのネットワークと人材育成事業のノウハウを生かした講座運営

近年、舞台芸術業界において、障害当事者の芸術鑑賞・表現に対する関心が高まってきています。しかし、実際に障害当事者の芸術鑑賞・表現に携わる機会が限られていることもあり、企画を担える人材は限定されており、文化施設や劇場においても、具体的にどのような施策を実施すればよいかわからないという状況が多くあります。
一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONALはこのような現状認識に基づき文化庁委託事業「令和5年度障害者等による文化芸術活動推進事業」を受託し、障害当事者をはじめとする劇場に足を運びづらい人たちとの舞台芸術表現や、鑑賞のプログラムの企画を立案できる人材を育成することを目的に「障害のある人と考える舞台芸術表現と鑑賞のための講座」を企画。precogでは福祉領域でのネットワークと人材育成事業運営のノウハウを生かし、学びのポイント設計や当事者との接点作り、アウトプットの場づくりなど講座の運営面を担当することになりました。

■受講生の募集と講座の広報

2023年9月からの講座スタートに向けて、8月に受講生の募集を開始。precogでは、受講生募集のためのフライヤーを作成・配布するとともに、SNSによる情報の拡散に努めました。講座の存在を知ってもらうための広報活動は、文化芸術業界全体でより広く問題意識を共有することにもつながるものであるという意識のもとに行ないました。

■オンライン講座の実施

オンライン講座では社会における芸術文化の価値そのものについて改めて考え直すことからスタートし、「合理的配慮」や「障害の社会モデル」についての考え方や、音声ガイドの制作プロセスを知り、障害当事者でもあるアーティストの声を聞くことで、学びを深めることができる講座内容が企画されていました。
precogでは、企画実践編の受講生については、講座の最後に講師と直接交流できる時間と受講生同士の議論ができる場を設けるなど、より学びを促進するようなコミュニケーションデザインを目指してプログラム設計を行いました。

■上映会の実施

上映会では障害当事者の創作活動にまつわるドキュメンタリー映画の上映を劇場や美術館等全国5都市で実施。運営にあたっては、会場となった文化施設の職員にも協力をあおぎ、巻き込む場とすることで、来場した障害当事者も含めたコミュニケーションを生み出し、受講生のみならず文化施設関係者の意識向上、知見の獲得を目指しました。
地域ごとに地域の福祉課や障害当事者のコミュニティ、地元の映画館などと連携して広報活動を実施し、地域の障害当事者や若い世代など、多様な鑑賞者の来場が実現しました。


<左から、福岡会場、福島会場での上映会の様子>

地域みんなで、取り組むアクセシビリティ。公共・劇場にできること、やっていくべきこと【障害のある人と考える舞台芸術表現と鑑賞のための講座】

■視察研修の実施

「企画実践編」の参加者を対象に全国各地4施設で視察研修を実施。オンライン講座で身につけた基礎知識に加え、各施設の設立背景や地域ごとの事例、当事者の声を知ることで学びを深める機会としました。
それぞれに異なる特色を持つ4施設での視察研修をより実りあるものとするため、事前に受講生の視察先の希望調査を行なうとともに、施設ごとに学びのテーマを設定。施設の担当者と相談しながらタイムテーブルを設計し、見学や質疑応答はもちろん、施設によっては街歩きの時間や自由時間を設けるなど、各施設に合わせた研修プログラムを策定しました。


<左から、川口太陽の家 工房集、ぬかつくるとこでのそれぞれ視察研修の様子>

障害のある人と共に、舞台芸術の場をつくっていきたい実践者のための講座レポート【視察研修編 前編】
障害のある人と共に、舞台芸術の場をつくっていきたい実践者のための講座レポート【視察研修編 後編】

■企画検討会・企画発表会の実施

成果発表の場となる企画発表会に先がけてオンラインで4回の企画検討会を実施。受講生同士のグループワークを通じて、最適なスケジュールを設計するなど企画発表会に向けて段階的に企画を立案していきました。各回にテーマを設定することで、メンターや監修者のアドバイスを通してより具体的な学びを得ることのできる場にすることを目指しました。
また、受講生の背景や職能を考慮したチーム分けを行ない、コミュニケーションツールDiscordをプラットフォームとするなど、オンラインでのコミュニケーションや議論がより効率的に進むようコミュニケーションデザインを行ないました。

オンライン講座や視察研修の成果を踏まえた企画検討会は、様々な背景や職能を持つ受講生同士がグループワークを通じて個々の問題意識を言語化し、自身の思考の枠に捉われず、社会にある「バリア」について考える機会となりました。
企画発表会では、多様な分野で活動をしている様々な障害のある人たちに企画へのフィードバックを依頼。受講生の発表においても自らアクセシビリティ対応を実践する機会を設けるとともに、障害当事者からのフィードバックを通して企画のブラッシュアップを目指しました。
企画発表会は劇場空間での開催だったため、precogが舞台芸術の制作で培ってきたノウハウを活かし、劇場スタッフの協力も得ながら、受講生の発表プランを十全に実現するためのコーディネートを行ないました。


<左から、企画実践編のAチーム、Bチームの様子>

【受講生対談】背景や職域の違う人同士で、“劇場”の課題に向き合った半年間。これからの活動にどのように生かせるか?
障害のある人と共に、舞台芸術の場をつくっていきたい実践者のための講座レポート【企画発表会 前編】
障害のある人と共に、舞台芸術の場をつくっていきたい実践者のための講座レポート【企画発表会 後編】

■アクセシビリティ対応

zoomを活用したオンライン講座とその後のアーカイブ配信では、講座がより多くの方の学びにつながるよう、手話通訳や字幕などの情報保障を実施しました。
上映会においても、全会場で多様な人の来場を想定したアクセシビリティ対応を実施。トークでは手話通訳とUDトークのプロジェクションを行いました。会場運営も車椅子の方や見えない・聞こえない方の来場を想定して準備を行ない、当日券でも多くの障害当事者の方が来場されていました。

成果

■舞台芸術関係者を超えた様々な層への情報のリーチ

受講生募集に対しては福祉に興味関心のある層はもちろん、舞台芸術関係者以外の文化芸術関係者からの申し込みや、定員を超える応募がありました。広報活動を通して講座の情報を様々な層に届け、問題意識を共有することができたのもこの講座の成果の一つです。

■ネットワークの活用

障害当事者の芸術鑑賞・表現を充実させるためには障害当事者と福祉関係者、舞台芸術関係者の協働が不可欠です。本講座の実施にあたっては、障害当事者と福祉関係者、舞台芸術関係者のそれぞれと様々なかたちで協働を行なってきたprecogのネットワークが活用されました。プログラムの内容によって適切なコーディネートを行い、また、プログラムの実施を通して新たなネットワークを構築することで、課題の共有と協働のノウハウの蓄積をさらに進めることができました。

■新たなネットワークの創出とさらなる展開

本講座の成果は個々の受講生の学びに限定されません。様々な背景と職能を持つ受講生同士がこの講座を通して出会った他の受講生、障害当事者、福祉関係者や舞台芸術関係者と育んだつながりは、障害当事者のための芸術文化プロジェクトを担うネットワークの一つとして、これから大きな意味を持つものになるはずです。企画実践編の受講生については、すでに未来に向けて協働の可能性も生まれてきています。本講座は2024年度も継続で実施が実現しました。precogは引き続き本講座の設計・運営を通して、文化芸術業界の将来に資するよう、育成の成果や有機的なネットワークを次に繋いでいくことを目指します。

活動報告書

 R5人材育成_報告書

ギャラリー

広報制作物

メディア掲載情報

プレスリリース

クレジット

文化庁委託事業「令和5年度障害者等による文化芸術活動推進事業」
主催:文化庁、一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONAL
企画・制作:一般社団法人DRIFTERS INTERNATIONAL
運営:株式会社precog