ノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクト『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』

- CATEGORY
- イベント形態|オンライン配信, トーク・シンポジウム, パフォーマンス, ワークショップ
- precogの業務|イベント制作
- 表現分野|演劇
- 開催年|2023, 2022, 2021
- SHOP
- オンデマンド
プロジェクト概要
チェルフィッチュによる「ノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクト」はノン・ネイティブ日本語話者の日本語演劇における活動機会を増やすことを目指す取り組みです。
2021年よりワークショップやトークイベントを開催。プロジェクトへの参加者を募り、そこで出会った人々とともに考えを深めてきました。
2023年3、4月にはこれまでのワークショップ参加者を対象にオーディションを実施。選ばれた4名の出演者とともに創作した『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』を8月に東京で初演しました。その後、9月にはKYOTO EXPERIMENT2023のプログラムの一つとして京都公演を、10月には烏鎮演劇祭2023のプログラムの一つとして烏鎮(中国)公演を実施、また2024年にはクンステンフェスティバルデザール(ブリュッセル)、国立現代美術館ソウル館(ソウル)、フェスティバル・ドートンヌ(パリ)での上演も実現しました。
このような取り組みや考え方が他の作り手にも広がることで創作の場がより開かれた豊かなものになることを目指して、公演だけでなく、プロジェクトの発案者である岡田利規やチェルフィッチュの出演俳優、他の演出家によるワークショップも実施しました。
◼︎precogの業務
公演・イベント制作、海外ツアー、オンラインイベント企画、鑑賞サポート・客席設計、ワークショップ、広報PR
◼︎プロジェクト期間
2020年前半〜
◼︎プロジェクト体制
ノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクト
主催:一般社団法人チェルフィッチュ
企画制作:株式会社precog
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』
製作:一般社団法人チェルフィッチュ
共同製作:KYOTO EXPERIMENT
◼︎関連リンク
公式サイト:https://chelfitsch.net/works/inbetween/
活動概要
演劇は、俳優の属性と役柄が一致せずとも成立するものです。それにも関わらず、日本語が母語ではない俳優はその発音や文法が「正しくない」という理由で、本人の演劇的な能力とは異なる部分で評価をされがちである、という現状があります。
ドイツの劇場の創作現場で、非ネイティブの俳優が言語の流暢さではなく本質的な演技力に対して評価されるのを目の当たりにした岡田利規は、一般的に正しいとされる日本語が優位にある日本語演劇のありようを疑い、日本語の可能性を開くべく、日本語を母語としない俳優との協働を構想しました。
このような経緯からはじまった「ノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクト」は、ワークショップやトークイベントを通じ、それらの参加者とともにノン・ネイティブ日本語話者との演劇について考え、実践していくものです。
プロジェクトの一つの成果として上演したチェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』には、ワークショップ参加者からオーディションを経て選ばれた4人のノン・ネイティブ日本語話者が2人のネイティブ日本語話者とともに出演しました。
作品について:
とある言語の衰退を食い止めるべく、宇宙船イン・ビトゥイーン号に乗り込んだ四人の乗組員と、一体のアンドロイド、そして銀河の旅の途中で遭遇する地球外知的生命体。
宇宙を漂いながら、やがて言葉をめぐる対話が繰り広げられます。劇中で語られる、変化しゆく「わたしたちの言葉」とは、いったい誰のものなのか。
舞台上で発されるせりふが、その発音や文法の「正しさ」とは関係なく観客に届くということ。パフォーマンスが引き起こす想像を拠り所に、「正しさ」から解放された言葉が作用し、演劇の本質があらわになる。
プロセス
■プロジェクトの立ち上げと資金調達
「ノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクト」の構想は2020年にスタートしました。岡田が体験した、ドイツ語がネイティブでない俳優にも当たり前に活躍の場があるドイツの演劇シーンを踏まえ、日本でノン・ネイティブ日本語話者の俳優の活動機会を増やしていくためにはどうすればいいのかを考え、実践していくために立ち上げられたこのプロジェクトは、アーツカウンシル東京の長期助成を受け、まずは3年間のプロジェクトとして2020年11月から動き出すことになります。
■プロジェクト参加者との出会いのためのリサーチ
2020年11月から2021年7月にかけて、どのようなかたちでプロジェクトを進め、どのように参加者を募るのがよいかを精査し、プロジェクトの基盤とするためのリサーチを行ないました。コロナ禍の影響で人と直接会うことが難しい状況もあり、オンラインで事例収集を進めつつ、多文化共生に関わる専門家らへのヒアリングを実施しました。これらのリサーチの成果を踏まえ、演劇における日本語の機能を問い直すプロジェクトであるという点において、多文化共生やインクルーシブの実現とはまた異なるアプローチが必要であることが改めて確認されました。
■ノン・ネイティブ日本語話者を対象としたワークショップの実施
2021年の9月からはノン・ネイティブ日本語話者を対象としたワークショップをスタート。「表現」に関することに興味のあるノン・ネイティブ日本語話者を対象としたワークショップを通じ、ノン・ネイティブ日本語話者による日本語演劇についてともに考えを深めました。2年目にはチェルフィッチュ出演俳優の米川幸リオンと安藤真理もワークショップのファシリテーターを担当しました。
<2021年、2022年のワークショップの様子>
<2022年のワークショップの様子(撮影:加藤甫)>
■プロジェクトについてのトークの開催
2022年7月にはトークイベント「チェルフィッチュによるノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクトについて考える」を開催。演劇研究者/学習院女子大学教授の内野儀と演劇ジャーナリストの徳永京子をトークゲストに迎え、プロジェクトのここまでの取り組みをシェアし、その可能性を改めて検討しました。より多くの人にこのプロジェクトのことを知ってもらい、取り組みをさらに広げるため、当日はトークのライブ配信も実施しました。現在もアーカイブ映像を配信しています。
■ワークショップ参加者を対象としたオーディションの実施
2023年3,4月には、ここまでのワークショップ参加者を対象としたオーディションを実施。プロジェクトの成果の一つとして創作・上演するチェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』に出演する4名のノン・ネイティブ日本語話者が決定しました。
<オーディションの様子>
■プロジェクトを周知し開いていくための様々な取り組み
『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』の創作と公演にあたっては、プロジェクト自体の意義や取り組みを周知するために、演出助手の公募や稽古場見学、山本ジャスティン伊等・山田由梨・野村眞人の3名の若手演出家によるノン・ネイティブ日本語話者を対象としたワークショップを実施。ワークショップの様子はチェルフィッチュのnoteでレポート記事としても発信しました。
また、10代の若者たちが、クリエーションの原点に出会うことができる学びの集積地「GAKU」との協力により、岡田と10代の観客とが作品を出発点に考えたことを話し合う観劇プログラムも実現しました。
■チェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』公演
『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』は、2023年6月半からのクリエーション期間を経て、8月に吉祥寺シアターで東京公演を、9,10月にはKYOTO EXPERIMENT2023のプログラムの一つとしてロームシアター京都で京都公演を、同じく10月に烏鎮演劇祭のプログラムの一つとして烏鎮(中国)公演を実施しました。また2024年には、クンステンフェスティバルデザール(ブリュッセル/ベルギー)、国立現代美術館ソウル館(ソウル/韓国)、フェスティバル・ドートンヌ(パリ/フランス)での上演も実現し、2025年には国内凱旋公演も予定しています。
■東京公演におけるバリアフリー施策の実施
チェルフィッチュが主催となった東京公演では鑑賞マナーハードル低めの回の設定、聴覚障害者向けの事前解説とタッチツアー、台本の貸し出し、会場内での移動のための誘導サポート、筆談対応と様々なバリアフリー施策を実施しました。
成果
■ノン・ネイティブ日本語話者による日本語演劇の一つの実例としての『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』公演の実現
作品を創ることはこのプロジェクトの最終目標ではありませんが、ノン・ネイティブ日本語話者による日本語演劇の一つの実例として『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』の公演を実現できたことはプロジェクトの大きな成果です。SNSやアンケートを通して寄せられた公演の感想には、公演を通してプロジェクトの取り組みが実感をもって理解できたという趣旨のものも多く見られました。
■新規客層の開拓、演劇関係者の交流の促進
稽古場見学やトークなどプロジェクトの現場を開く試みを通し、多くの演劇関係者と意見交換を行ない、興味関心を喚起することができました。その一つの成果として『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』公演では、若い世代の観客を含め、これまでのチェルフィッチュ公演ではあまり見られなかった新たな客層の観客にも足を運んでいただきました。
KYOTO EXPERIMENTを共同制作に迎え「まぜまぜ」をテーマとするKYOTO EXPERIMENT2023のプログラムとして京都公演を実現できたことも、プロジェクトの取り組みをより広い文脈に接続することにつながりました。
ギャラリー
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<東京公演> 撮影:前澤秀登 -
<東京公演> 撮影:前澤秀登 -
<東京公演> 撮影:前澤秀登 -
<京都公演> 撮影:井上嘉和 提供:KYOTO EXPERIMENT -
<京都公演> 撮影:井上嘉和 提供:KYOTO EXPERIMENT -
<京都公演> 撮影:井上嘉和 提供:KYOTO EXPERIMENT
広報制作物
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『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』東京・京都公演 メインビジュアル
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『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』東京・京都公演 チラシ1
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『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』東京・京都公演 チラシ2
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2021年ワークショップチラシ1(日本語)
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2021年ワークショップチラシ2(日本語)
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2021年ワークショップチラシ1(英語)
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2021年ワークショップチラシ2(英語)
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2022年4、5月ワークショップチラシ(日本語)
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2022年4、5月ワークショップチラシ(英語)
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2022年10月ワークショップチラシ
メディア掲載情報
- 2023年7月31日:「宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓」 境界を超えて、その先へ|/jstages.com
- 2023年8月4日:日本語を母語としない人との演劇プロジェクト 取り組む岡田利規の夢|朝日新聞
- 2023年8月10日:母語は日本語…「予定調和は嫌だ」 演劇作家・岡田利規「宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓」|朝日新聞
- 2023年9月20日:“あさあさ”な言葉の「正しさ」の正体に“ふかふか”と迫る――劇言語の可能性を探るチェルフィッチュの新たな挑戦 文:梅山いつき|KYOTO EXPERIMENT
- 2023年9月29日:(文芸時評)フリをする 演技者が演技を重ねるごとく 古川日出男|朝日新聞
- 2023年11月15日:KYOTO EXPERIMENT 2023(前編) チェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』|artscape
プレスリリース
関連アーティスト
関連@オンライン
クレジット
『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』
作・演出:岡田利規
出演:安藤真理、徐秋成、ティナ・ロズネル、ネス・ロケ、ロバート・ツェツシェ、米川幸リオン
舞台美術:佐々木文美
音響:中原楽
サウンドデザイナー:佐藤公俊
照明:吉本有輝子
衣裳:藤谷香子
舞台監督:川上大二郎(スケラボ)
演出助手:山本ジャスティン伊等(Dr. Holiday Laboratory)
英語翻訳:オガワアヤ
宣伝美術:牧寿次郎
アートワーク:平山昌尚
プロデューサー:黄木多美子(precog)、水野恵美(precog)
プロジェクトマネージャー:遠藤七海
プロジェクトアシスタント:村上瑛真(precog)
製作:一般社団法人チェルフィッチュ
共同製作:KYOTO EXPERIMENT
企画制作:株式会社precog
東京公演:
主催:一般社団法人チェルフィッチュ
提携:公益財団法人武蔵野文化生涯学習事業団(東京公演)
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(創造団体支援)) |独立行政法人日本芸術文化振興会
京都公演:
主催:KYOTO EXPERIMENT
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(国際芸術交流支援))|独立行政法人日本芸術文化振興会、一般財団法人地域創造[舞台芸術を通して考える身体/歴史/アイデンティティ]