AIと身体を用いた実験的作品の企画・制作

contact Gonzo × やんツー『jactynogg zontaanaco ジャkuティー乃愚・存taアkoコ』

  • CATEGORY
  • イベント形態|パフォーマンス
  • precogの業務|イベント制作, バリアフリー
  • 表現分野|ダンス, 映像, 美術
  • 開催年|2023

プロジェクト概要

身体を接触させる即興的パフォーマンスを行なう芸術家集団contact Gonzoと、自律的な機械などを用い芸術表現の主体性を問うアーティストのやんツーによる、2019年に制作したパフォーマンス作品『untitled session』を下敷きとした新作パフォーマンス。身体表現の翻訳を考えるフェスティバルであるTRANSLATION for ALLの一環で、AIを用いて身体表現と言語との関係を問い直す作品として株式会社precogが企画・制作しました。

◼︎precogの業務
公演制作、鑑賞サポート・客席設計

◼︎プロジェクト期間
2022年12月〜2023年5月

◼︎プロジェクト体制
主催:株式会社precog
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、芸術文化振興基金
協力:ANOMALY、一般財団法人おおさか創造千島財団、株式会社おとも

◼︎関連リンク
公式サイト:https://theatreforall.net/join/jactynogg-zontaanaco/

作品概要

本作ではcontact Gonzoによる即興パフォーマンスにやんツー制作のAIを搭載した自走機械が伴走し、入力画像に対してそれが何であるか説明する文章を生成するイメージキャプショニングという手法を用いて、舞台上で展開される身体表現を言語へと置き換えようと試みます。しかし、即興で展開される身体パフォーマンスを言語化することは人間にとってもAIにとっても困難な試みです。言葉や意味から逃れ続ける身体表現と向き合うAIと観客は、そしてアーティストは、そこに何を見出すでしょうか。

プロセス

■アーティストの選定と作品の方向性の決定

身体表現の「翻訳」を考えるフェスティバルにおいて上演する新作パフォーマンス作品を、言語化困難な身体的パフォーマンスを展開し続けているcontact Gonzoに委嘱。作品の方向性についての打ち合わせのなかで、contact Gonzoが2019年にやんツーとともに創作した『untitled session』をバージョンアップし、AIを用いて身体的パフォーマンスの実験的「翻訳」を試みることが決まりました。

■会場の選定

作品の方向性に合わせて公演会場を選定しました。当初は劇場空間での上演も検討していましたが、作品の性質上、ブラックボックスよりも個性ある空間で上演した方が面白いものになるのではとギャラリースペースANOMALYを会場として提案し、公演会場に決定しました。

■創作スケジュールの策定

大阪を拠点とするcontact Gonzoと神奈川・千葉を拠点とするやんツーによる共同制作のプロセスをベストな形で進行していくため、大阪と、公演会場のある東京それぞれでの短期集中の創作スケジュールを策定しました。本作のクリエイションにおいては、AIにデータを学習させるための期間を設ける必要があったこともあり、東京公演の2ヶ月前に大阪でのワークインプログレスも実施。そこでのフィードバックを踏まえ、東京公演に向けてAIのさらなるデータ学習を行ないました。

■アクセシビリティ施策の検討・実施

アクセシビリティとアーティストの実験性の共存の可能性を見出すことを目標の一つに掲げた本作のクリエーションでは、大阪でのワークインプログレスと東京公演のゲネプロのそれぞれにおいて、アクセシビリティの観点からフィードバックを視覚障害当事者の方からいただき、作品のブラッシュアップにつなげました。


<左から、AIによる実況、ダンサー仁田晶凱氏による実況、開演前のタッチツアー>

▷身体表現の翻訳を考える「TRANSLATION for ALL」関連プログラム 『jactynogg zontaanaco ジャkuティー乃愚・存taアkoコ』 ワークインプログレス レポート

■作品と観客とをつなぐ当日運営

公演当日には、受付など通常の制作業務に加えて、開演前にはアーティストからの提案により観客が参加できるワークショップを実施し、終演後には先天性全盲であり、映画監督やミュージシャンなど多彩な顔を持つ加藤秀幸氏をゲストに招きアフタートークを実施するなど、作品の外側でも観客が「翻訳」について考える機会を得られるよう運営を行ないました。客席は連日満員で、ワークショップやアフタートークにも多くの観客が参加しました。

成果

■AIと身体、「翻訳」にまつわる現在進行形の諸問題を提示

AIはすでに私たちの生活のなかに浸透しつつありますが、生身の身体とAIとの関わり合いが直接的に可視化される機会は多くはありません。本作では、人間でも言語化が困難なcontact Gonzoの身体的なパフォーマンスをやんツー制作のAIが言語化=翻訳・実況するという構造によってその限界や不可能性を露呈させ、また、そこに人間の実況を併置することによって、身体表現を言語化することとはどういうことか、人工知能の働きとは何かという問いを改めて、楽しみながら考える機会を創出しました。それは芸術が何をやっているのか、それを見る観客が何を感じ何を考えているのか、上演の場では何がどのように伝達され解釈されているのかを改めて考え直す契機にもなったはずです。

一方、制作チームとしては、「翻訳」の限界を露呈させることでそのあり方を問い直すような本作におけるクリエイティビティと、「情報保障」として視覚情報を音声言語などに置き換えて伝達するアクセシビリティの取り組みとでは、それぞれに追求するべき質が異なるものであることに、改めて気づくことにもなりました。そのような気づきを得られたこともプロジェクトの成果として、両者の共存をどのように実現していくかも含めて、今後も継続して取り組むべき課題となりました。AIの進化が日々著しいことを考えれば、テクノロジーの進化が必然的に作品に取り込まれることになるこの作品は、上演の度にその時点でのAIと身体、ひいては人間との関係を問い直すものになるでしょう。

■アーティストの新たな視点の獲得

ワークインプログレスおよびゲネプロにおける複数の視覚障害者からのフィードバックは、アーティストがそれまでに意識していなかった視点から自分たちの作品を捉え直すことにつながりました。ここで得た知見は、アクセシビリティの観点にとどまらず、今後の創作に活かされていくことになります。

記録映像

ギャラリー

広報制作物

メディア掲載情報

プレスリリース

クレジット

演出・構成:contact Gonzo、やんツー
出演:contact Gonzo(塚原悠也、三ヶ尻敬悟、松見拓也、NAZE)
テクニカルデザイン:やんツー、稲福孝信(HAUS)
舞台監督:河内崇
実況:仁田晶凱
視覚障害者モニター:山川秀樹、石井健介、加藤秀幸
記録写真:高野ユリカ
記録映像:松本亮太
プロデューサー:黄木多美子(株式会社precog)
コンセプトアドバイザー:井高久美子
プロジェクトマネージャー:加藤奈紬
票券、アシスタントプロジェクトマネージャー:村上瑛真(株式会社precog)

主催:株式会社precog
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京、芸術文化振興基金
協力:ANOMALY、一般財団法人おおさか創造千島財団、株式会社おとも