Ob/Scene Festival(韓国・ソウル)からの委嘱による映像演劇の新作

チェルフィッチュ 映像演劇『ニュー・イリュージョン』

  • CATEGORY
  • イベント形態|パフォーマンス
  • precogの業務|イベント制作, 国際事業
  • 表現分野|映像, 演劇
  • 開催年|2023, 2022

プロジェクト概要

スクリーンなどに投影された等身大の役者の映像と観客の想像力によって「演劇」を立ち上げる〈映像演劇〉シリーズの新作。韓国・ソウルで2020年から開催されている新しい国際芸術祭Ob/Scene Festivalからの委嘱を受け創作され、株式会社precogは企画制作を担当しました。2022年には東京公演に加えて光州、ソウルの韓国2都市ツアーを、2023年にはシンガポール、ジャカルタのアジア2都市ツアーを実施しています。

◼︎precogの業務

公演制作、海外ツアー、オンラインイベント企画、広報PR

◼︎プロジェクト期間

2022年4月〜2023年8月

◼︎プロジェクト体制

委嘱:Ob/Scene Festival
製作:一般社団法人チェルフィッチュ
企画制作:株式会社precog
本作は「2022 ACC (Asia Culture Center) International Co-production Performing Arts Development Program」によって制作されました。

◼︎関連リンク

公式サイト:https://chelfitsch.net/works/new-illusion/

作品概要

スクリーンなどに投影された等身大の役者の映像と観客の想像力によって「演劇」を立ち上げる〈映像演劇〉シリーズは2018年にスタートし、美術館や展示スペースで上演/展示をしてきました。劇場の機構を利用して上演/展示した2022年初演の『階層』に続き、本作では〈映像演劇〉として初めて、舞台と客席という通常の演劇の形式を踏襲した劇場空間での「上演」に挑戦しています。
舞台の上に立つ一対のスクリーンに映し出された男女は、昨日までその劇場で上演されていたという、かつて二人が暮らした部屋を舞台にした演劇について語り出します。そこで語られているのは演劇=虚構の話か、それとも二人の生活=現実の話か。スクリーンに映し出される虚構の空間と劇場という現実の空間もまた互いを侵食し、ふとした瞬間、そこにはいないはずの俳優の気配が——。観客は、舞台の上に現実と虚構、現在と過去、存在と不在が折り重なり、騙し絵のように様相を変えていく様を感じることになるでしょう。

プロセス

■Ob/Scene Festival(韓国・ソウル)からの委嘱

本作のクリエーションは、Ob/Scene Festivalからの委嘱によってスタートしました。フェスティバルを立ち上げたKim Seong-HeeはFestival BO:Mでの『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』(2011年)、『現在地』(2013年)、『地面と床』(2014年)の招聘や、日韓共同制作による『God Bless Baseball』(2015年)でチェルフィッチュ/岡田利規と継続的に協働してきたディレクターです。そんなKim Seong-Heeからの「岡田とメディアアートの作品をやりたい」という依頼にチェルフィッチュ/岡田利規が舞台映像デザイナーの山田晋平氏取り組んできた〈映像演劇〉シリーズが合致。〈映像演劇〉の劇場空間での上演というかねてから温めてきたアイディアに基づく新作の制作が動き出しました。その後、韓国・光州での上演も決定し、2022年の韓国2都市ツアーと東京公演に向けてプロジェクトを進めていくことになります。

■〈映像演劇〉の次なる挑戦を実現するためのプロデュースおよび進行管理

本作は、チェルフィッチュが〈映像演劇〉として初めてダイアローグを取り入れた「ダイアローグの革命」(『風景、世界、アクシデント、すべてこの部屋の外側の出来事』の一編)での取り組みをさらに展開したものでもあります。「等身大の映像」によって演劇的な効果を生み出すという〈映像演劇〉のコンセプトを複数の人間がいる空間全体にまで拡張し、〈映像演劇〉のさらなる可能性を開くことに挑戦。それを実現するべく、まずはキャスティング・スタッフィングを行ないました。前作『風景、世界、アクシデント、すべてこの部屋の外側の出来事』にも出演している足立智充・椎橋綾那の二人の俳優の出演に加え、Kim Seong-Heeの推薦によりソウルのミュージシャンJeong Jung-yeopとのコラボレーションも決定。初の劇場空間での〈映像演劇〉と直後の海外ツアーを十全なかたちで実現するべく、『消しゴム山』などでも協働しているのプランナー陣に声をかけ、クリエーションを進めました。

映像の投影によって「上演」を行なう本作では、公演本番に先がけて劇場空間でのクリエーションと撮影を実施。東京公演では会場を若手の演劇関係者に馴染みのある王子小劇場とし、団体割引を初めて導入するなど、これまでとは異なる観客層にリーチするための会場選定と票券の設定も実施しました。

並行してシンガポール、ジャカルタからチェルフィッチュへのオファーに応じるかたちで2023年のアジアツアーも決定し、資金調達のためアーツカウンシル東京への助成金の申請を進めるなど、長期的な計画に基づいた進行管理を行ないました。


<撮影の様子>

■東京公演と韓国2都市ツアー

本作のポテンシャルを十全に発揮し上演を成立させるためには、生の俳優が出演せず映像のみでの上演になる分、客席を含めた劇場空間のコンディションに通常の演劇作品以上に気を配る必要がありました。東京、光州、ソウルと3都市の公演会場はそれぞれに全く条件の異なる劇場だったため、求める水準と現実的な条件を擦り合わせつつ、ベストな上演環境の実現を目指してスタッフと調整を重ねました。
2022年8月には東京公演を実施。ベストな観劇体験を実現するために客席数を限定しつつ、少しでも多くの観客に劇場体験を提供するために、映像による上演という手法の利点を活かし1日最大4公演を実施。

東京での成果は同年11月の光州でのプレミア、そしてソウルでの上演へと結実しました。2022年の3都市ツアーでの経験によって培われたノウハウは翌年のアジアツアーでも活かされます。

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■アジア2都市ツアー

2023年にはアジア2都市ツアーを実施。6月にはシンガポールで開催されている国際芸術祭Singapore International Festival of Artsで、8月には ジャカルタのDjakarta International Theater Platformで本作を上演しました。〈映像演劇〉という新しい取り組みをより多くの観客に開くため、シンガポールでは本作の映像を担当する山田晋平によるワークショップを、ジャカルタでは岡田と山田によるトークセッションも実施しました。


<ジャカルタでのトークセッションや開演前の観客の様子>

成果

■〈映像演劇〉のさらなる発展

2018年から美術館や展示スペースを主なフィールドとし、等身大の俳優の映像をスクリーンなどに投影する形式で展開してきた〈映像演劇〉シリーズ。本作においては「等身大」というコンセプトを劇場空間にまで拡大し、舞台と客席という通常の演劇の形式を踏襲した劇場空間での「上演」を実現しました。これまでの〈映像演劇〉の取り組みをさらに発展させるのみならず、劇場空間での上演作品としてモビリティの高い、各地で上演しやすい作品としてそれが結実したことも大きな成果です。

■新たな観客層の獲得

東京公演においては王子小劇場という若手に馴染みのある、しかしこれまでにチェルフィッチュが使ってこなかった劇場を使ったことや団体割を設定したことにより、新たな観客層を獲得することに成功しました。また、公演期間中に映画監督・三宅唱と本作クリエーションメンバーによるトークを実施し、それを配信したことで、映画や美術に関心を持つ層にも〈映像演劇〉という取り組みへの関心を喚起しました。

ソウルでは映像やAIといったテクノロジーとアートとの融合による実験的な作品をアジアをはじめとする世界中から意欲的に招聘するOb/Scene Festivalでの公演が実現したことで、舞台芸術のみならず美術分野に興味関心を持つ層にリーチすることができました。

■アジア圏へのチェルフィッチュの紹介

チェルフィッチュ/岡田利規の作品はこれまで、ヨーロッパ圏では多く上演されてきましたが、アジア圏、特に東南アジアではなかなか紹介される機会がありませんでした。今回、シンガポールでは2008年の『三月の5日間』以来の、インドネシアでは初めての公演を実現し、近年、舞台芸術においても躍進の目覚ましいアジア圏において改めてチェルフィッチュ/岡田利規の作品を紹介することができたのは大きな成果です。

ギャラリー

メディア掲載情報

プレスリリース

関連アーティスト

クレジット

作・演出:岡田利規
映像:山田晋平
出演:足立智充、椎橋綾那、 Jeong Jung-yeop

音楽:Jang Young-gyu

録音・音響:中原楽(Luftzug)
照明:髙田政義(RYU)、葭田野浩介(RYU)
衣裳:藤谷香子(FAIFAI)
舞台監督:川上大二郎、守山真利恵
録音:佐藤佑樹、株式会社 大城音響事務所
映像アシスタント:齊藤詩織(青空)、樋口勇輝
通訳:イ・ナウォン
英語字幕:アヤ・オガワ
プロデューサー:水野恵美(precog)
プロダクションマネージャー:遠藤七海(precog)
アシスタントプロダクションマネージャー:村上瑛真(precog)
制作デスク:斉藤友理、平岡久美(precog)

委嘱:Ob/Scene Festival
製作:一般社団法人チェルフィッチュ
企画制作:株式会社precog
協力:公益財団法人セゾン文化財団、空 、オフィススリーアイズ
本作は「2022 ACC (Asia Culture Center) International Co-production Performing Arts Development Program」によって制作されました。