森美術館との協働による展覧会関連プログラムの企画・運営

「Meet the Artists」山本高之「イクトゥス」

  • CATEGORY
  • イベント形態|オンライン配信, パフォーマンス, ワークショップ, 参加型
  • precogの業務|イベント制作, 教育普及, 広報PR
  • 表現分野|映像, 演劇, 美術, 音楽
  • 開催年|2021

プロジェクト概要

森美術館「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」関連プログラムとして、2021年6月から2カ月間にわたり、森美術館と株式会社precogが主催したプログラム。これまで森美術館ラーニングチームとも数多くのプロジェクトを行なってきたアーティスト・山本高之を迎えて、まだ性の認識が固まりきっていないであろう6〜10歳の子どもたちを対象に実施することになりました。

研究者から魚の世界の「性」の多様なあり方を学び、合計8日間のワークショップ活動でミュージカルを制作。音楽は、あっこゴリラ(ラッパー)、額田大志(作曲家、演出家)、テニスコーツ(ミュージシャン)が子どもたちとの対話を通して歌詞・楽曲を制作、歌の練習を行いました。参加者の保護者の方々も含む大人も協力しながら、衣装や舞台美術も作りました。

ミュージカル発表の様子を収録した映像作品と、プログラム全体を追ったドキュメンタリー映像作品が、THEATRE for ALLと森美術館「MAMデジタル」で配信されています。

◼︎precogの業務

イベント制作/広報・PR/教育普及/アクセシビリティ・バリアフリー対応

◼︎プロジェクト期間

2021年6月〜8月

◼︎プロジェクト体制

企画:森美術館ラーニング、株式会社precog
企画協力:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS
協力:ゲーテ・インスティトゥート 東京
助成:日本財団、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
主催:森美術館、株式会社precog

◼︎関連リンク

森美術館公式サイト https://www.mori.art.museum/jp/learning/4742/index.html
THEATRE for ALL 作品ページ https://theatreforall.net/movie/ichthys/

◼︎アーカイブ記事

ジェンダー、ダイバーシティをミュージカルで体験。『イクトゥス』が目指した新しい学びの形|Fasu

作品概要

古代ギリシア・ローマ時代の「神話」や、『古事記』などの日本の古典文学では、私たち人間の「性」の描かれ方は多様であった一方で、生まれてきたときの「性」を死ぬまで生きることが当たり前とされる時代が長く続いてきました。私たちは、日常のさまざまな場面で、「女らしさ」や「男らしさ」という社会規範に沿って生きることが求められ、現在もなお、そのような従来の価値観が根強く残っています。

人間の世界とは異なり、魚をはじめとした水中生物の世界では、成長する過程や環境にあわせて性別が変化したり、生き延びるために自ら変化させたり、人間とはまったく異なった性のあり方を見ることができます。同じ種類の魚の群れのなかで体の大きさで性別を決めたり、1日に20回も性転換したりする魚も存在します。

本プロジェクトでは、そのような魚の世界の「性」の多様なあり方を学び、アーティストの山本高之がミュージシャンや子どもたちと共に表現します。ワークショップ形式で歌や衣装、大道具などを制作し、最後にはミュージカルとして上演。その上演の様子と、本番までのワークショップの活動の様子を記録したドキュメンタリー映像を、映像作品として公開します。

ワークショップ内容

2021年6月から約2カ月にわたって開催したワークショップでは、魚に詳しい先生の話をZOOMで聞いたり、子どもたち自ら歌詞づくりに参加して歌の練習をしたり、登場する魚の衣装を作成したり、たくさんの活動をおこないました。そして、準備してきた成果を不思議な魚の世界のミュージカルとしてお披露目しました。

■対象
6〜10歳

■会場
森美術館オーディトリアム、ゲーテ・インスティトゥート 東京
(Zoomによるオンライン形式で実施する回もあり)

配信情報

■パフォーマンス収録 YouTubeライブ
日時:2021年8月15日(日) 15:00〜
出演:山本高之(アーティスト)
ワークショップ参加の子どもたち
会場:THEATRE for ALL YouTubeチャンネル
言語:日本語
※アーカイブはありません

■映像公開
トレーラー映像
配信:THEATRE for ALL YouTubeチャンネル
アクセシビリティ:手話、バリアフリー日本語字幕+手話、英語字幕

パフォーマンス映像
配信:THEATRE for ALL、森美術館ウェブサイト内「MAMデジタル」
アクセシビリティ:英語字幕、バリアフリー日本語字幕、バリアフリー日本語字幕+手話

ドキュメンタリー映像
日程:12月配信開始予定
配信:THEATRE for ALL
アクセシビリティ:英語字幕

プロセス

■魚の性を知ることで「多様性」に触れる

参加対象とした6〜10歳という子どもたちは、性別の自覚が確立しておらず、多くがジェンダーの社会的な荒波に揉まれる前の段階であると考えられます。そんな世代に対して「多様であれ」と教え込もうとするのではなく、魚を題材に人間の当たり前とは全く異なる世界を知ることが、子どもたちのこれからの人生の何かのヒントになればという期待が込められています。

■その道のプロの大人(専門家)と出会う

魚の性を知り、それを面白がり、ミュージカルにする。ただ楽しいだけにならないように、子どもたちに考えさせることも大きな目的の1つでした。

合計8日間のワークショプでは、小道具をつくったり、歌を作ったりしながら、そこで出た子どもたちの発言も積極的に取り入れたシナリオが作られました。山本高之氏が子どもたちの言動を大切にしながら、本番直前まで練りに練ってシナリオが完成しました。

初回は専門の先生方による魚のお話を聞くというワークショップ。新型コロナの感染拡大の影響もあり、オンラインで行われたため、子どもたちの集中力が持つかが心配でしたが、山本氏は子どもたちが自由に参加できるような方針で行いました。

初めて聞くような魚の名前が10種類くらい出てきたり、なかなか見ることのないタツノオトシゴの出産シーンを見たりと熱いお話が続き、3時間に及ぶ長丁場でも子どもたちは興味深く聞き入っていました。

アーティストとミュージシャンたちも一緒に先生方の話を聞き、子どもたちと感想を共有して、それを元にミュージカルの音楽にしていきました。
創作は、ミュージシャンのそれぞれの活動を想起させるような方法で進められましたが、子どもたちがどんどん吸収し覚えていたのが印象的でした。家でも熱心に練習していたと聞きました。


(撮影:田山達之 写真提供:森美術館)

段ボールなど身近な材料を使った小道具づくりでは、「テラッコレクティブ」のスタッフや芸大生、保護者の方々にも協力いただけました。参加者たちが自分の作りたいものやこだわりを持って創作している様子が見受けられました。


(撮影:田山達之 写真提供:森美術館)

ミュージカルは、プロのテクニカルスタッフによる音響や照明により、ゲーテ・インスティトゥート 東京のステージで上演。その様子はYouTube LIVEで配信し、たくさんの方に見ていただきました。


(撮影:田山達之 写真提供:森美術館)

■コロナ禍での実施における子ども向けWS

人と人との距離を取りながら進める必要があったコロナ禍でのワークショップ開催。森美術館・プリコグのガイドラインに沿って日々対策を行い、本番前には事前に参加者全員が検査を実施して臨みました。

ワークショップではどうしても「密」状態になってしまいます。保護者の方も同席が必要なため、大人だけのワークショップに比べて人数が必要になります。これが実施に際しての大きな課題でした。

そこで、いくつかのグループに分けて作業を行うことにし、それぞれに部屋を割り当て、物理的に距離を取ることに。森美術館の充実した環境だからこそ、状況に応じて対処できました。

親御さんにとって何かと心配なことが多い状況下にもかかわらず、森美術館のラーニングチームの知見に助けられ、無事に開催できました。森美術館は子どもは自由に、親御さんは心配させないという対応で、保護者の方々もラーニングプログラムへの信頼度が高く、今後も子ども向けプログラムを続けていきたいprecogにとっても学びのある協働になりました。

成果

■子どもたちの「意識改革」

事後のアンケートでは「なんとなく子どもが変わってきていると感じる」という声も多くありました。

▶︎参加者アンケートより
「(ワークショップを)サポートしてくださる大人達がいることを知り、一つの舞台を作るために、色々な仕事があることも分かったようです。」
「魚の生態を知る事や学校のクラスメイト・地域の友達ではない方達とのグループワーク、学校や習い事の先生以外の大人達との交流を通して、世界には「ちがい」が沢山あることに触れたと思います。社会の出来事と自分の取り組みがリンクし、多様性・包摂性といった概念を自分の体験にできたように感じています。」


(撮影:田山達之 写真提供:森美術館)

■違う目線からの性教育
このプログラムへの参加理由として「性の話題は自分たちで教えにくいから」というものがありました。日本では特に、性は親が自分で伝えるのが難しいデリケートなテーマだと言われます。性教育の一助になるという成果もあったようです。

▶︎参加者アンケートより
「まだ女らしさや男らしさに囚われない年代だからこそ、素直に受け入れていました。」
「多様なジェンダーがあるということを本人が体感として理解出来た。」


(撮影:田山達之 写真提供:森美術館)

■参加者の自主性を育む

子どもたちの意見を尊重し、自主性を大事にして進めていったワークショップ。意見を出せる環境づくりにも気を配りました。回を重ねる毎に、子どもたちがしっかりと意見を出すようになっていました。

▶︎参加者アンケートより
「受け身の姿勢で学習するのではなく、気になる事は自ら情報を得たいという姿勢が見られています。YouTubeを見てくれた人から、良かったよ、と言われて、やれた!という事が自信になったようです。」
「外で自分を出すことのハードルが少し下がったように感じます。友達との関係、周りに対する興味・関心の持ち方など、これまでよりも積極的・能動的になりました。


(撮影:田山達之 写真提供:森美術館)

ギャラリー

メディア掲載情報

プレスリリース

関連@オンライン

クレジット

アーティスト:山本高之
出演:アメリ、イスモ、オウタロウ、コト、タマオ、ダリア、ツムギ、ナナハ、ハコ、ハノ、ハルト、ヒカリ、マリナ、ミユウ、ミツキ

音楽:額田大志、あっこゴリラ、テニスコーツ

レクチャー講師:神田真司(東京大学大気海洋研究所 准教授)、飯田敦夫(名古屋大学大学院生命農学研究科 助教)

企画:田中みゆき
アーティスト・アシスタント:菊地みぎわ
制作補助:今井亜美、工藤森人、倉田眞希、近藤康弘、佐藤卓也、西沢瑶、三輪和誠、柳本紀子
衣装・舞台美術:浅見由希子、千田佳子、藤原智子、原志緒理、ハーモニー ルミコ、稲葉智子、小野健太郎、櫻井史恵、田尻真也子、和田由乃、藪前知子

ドキュメント映像プロデューサー/ビジュアルデザイン:濱祐斗
ドキュメント映像監督:田中隼
映像撮影:荒井英明、板倉大樹、高坂勝、西久保将夫
整音:吉濱翔

[公開収録]
舞台監督:河内崇
音響:井口寛
照明:木藤歩
制作:藤井さゆり(ベンチ)
ライブ映像配信・トレーラー映像監督:太田信吾
ライブ配信ナビゲーター:青柳いづみ
ライブ配信撮影:末松祐紀

記録写真:田山達之

[バリアフリー映像]
手話翻訳:那須映里
手話監修:那須英彰
手話コーディネート:廣川麻子 シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)
バリアフリー日本語字幕:坂本朋恵(文織工房)
英語字幕:並河咲耶

森美術館
アソシエイト・ラーニング・キュレーター:白木栄世
ラーニング・リーダー:高島純佳
ラーニング・リーダー:岡田真澄
アソシエイト・ラーニング・コーディネーター:横山佳世子
アソシエイト・ラーニング・コーディネーター:廣田真理子
アシスタント:池田佳穂

株式会社 precog
プロデューサー:中村茜
制作デスクチーフ:黄木多美子、平岡久美
制作デスク:佐藤瞳、田澤瑞季
バリアフリーコーディネート:兵藤茉衣
バリアフリー制作:谷津有佳
ライブ配信制作:水野恵美、小野寺研斗
チーフ・アドミニストレーター:森田結香
SNS広報:宮崎淳子

主催:株式会社 precog、森美術館
企画:株式会社 precog、森美術館ラーニング
企画協力:日本財団 DIVERSITY IN THE ARTS
助成:日本財団
協力:ゲーテ・インスティトゥート東京