世田谷パブリックシアターでの演劇公演の企画・制作

チェルフィッチュ×金氏徹平『消しゴム山』東京公演(2024)

  • CATEGORY
  • イベント形態|パフォーマンス
  • precogの業務|イベント制作, バリアフリー, 広報PR
  • 表現分野|演劇
  • 開催年|2024

プロジェクト概要

2019年にKYOTO EXPERIMENT主催「KYOTO EXPERIMENT 2019」公式プログラムとして初演し、チェルフィッチュのこれまでの方法論を刷新した新たな代表作の再演。その後も国内外をツアーで巡回するのみならず、同一のコンセプトで複数のプロジェクトを展開していった作品を、チェルフィッチュとしては過去最大規模の劇場である世田谷パブリックシアターで上演し、株式会社precogではその企画制作を担当しました。

◼︎precogの業務
公演・イベント制作、鑑賞サポート・客席設計、広報PR

◼︎プロジェクト期間
2023年10月〜2024年7月

◼︎プロジェクト体制
主催・企画・製作:一般社団法人チェルフィッチュ

共同製作:
〈消しゴム山〉KYOTO EXPERIMENT、Wiener Festwochen、Festival d’Automne à Paris、Künstlerhaus Mousonturm Frankfurt

〈消しゴム森〉金沢21世紀美術館
*本プロジェクトは、『消しゴム山』(初演:2019年10月KYOTO EXPERIMENT)、『消しゴム森』(初演:2020年2月金沢21世紀美術館)の両バージョンからなる。

提携:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷パブリックシアター
後援:世田谷区
助成:芸術文化振興基金助成事業、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【東京ライブ・ステージ応援助成】、公益財団法人全国税理士共栄会文化財団

企画制作:株式会社precog

◼︎関連リンク
公式ページ:https://chelfitsch.net/activity/2024/03/EM24tokyo.html
特設ウェブサイト:https://www.keshigomu.online/
クラウドファンディングページ:https://motion-gallery.net/projects/eraser-mountain2024

作品概要

2017年、岡田利規は岩手県陸前高田市を訪れ、津波被害を防ぐ高台の造成工事のために驚異的な速度で風景が人工的に作り変えられていくのを目の当たりにしました。そこから生じた「人間的尺度」への疑いが『消しゴム山』の構想へとつながります。美術家・金氏徹平氏をコラボレーターに迎え、2018年からチェルフィッチュが力を注ぐ「映像演劇」も取り入れながら、人間中心主義から逸脱した先にあらわれる風景を描きます。
初演当時から私たちを取り巻く社会は大きく変わりました。新型コロナウイルスという人間の手には負えない脅威を目の当たりにし、また、世界的な情勢の大きな変化を体験した2024年の観客の目に、「人間的尺度を疑う」というコンセプトに基づいてつくられたこの作品はどのように映るでしょうか。

プロセス

■チェルフィッチュとしての作品の連続性を踏まえた再演の決定

2019年に初演された『消しゴム山』はチェルフィッチュ/岡田利規の作風の一つの転機となった作品であり、「人間的尺度を疑う」というコンセプトはその後も美術館版『消しゴム森』、書籍版『消しゴム石』、日常空間版『消しゴム畑』、小説版『消しゴム式』、ライブイベントでの上演版『消しゴム草』と様々に展開してきました。2023年5月にウィーン芸術週間で初演され、2024年9月には東京芸術劇場での日本初演を控えていた『リビングルームのメタモルフォーシス』も同一のコンセプトの延長線上にある作品です。
2021年の『消しゴム山』東京公演はコロナ禍の只中での公演だったこともあり、当初想定していた規模の観客に作品を届けることは叶いませんでした。そこで2024年に、『リビングルームのメタモルフォーシス』の日本初演と合わせ、チェルフィッチュの変化や連続性をより多くの観客に届けることを目指し、このタイミングで『消しゴム山』を再演することを決めました。
同時にこの再演は、コロナ禍や世界情勢の大きな変化を体験した今だからこそ、「人間的尺度を疑う」ことを掲げたこの作品は改めて上演されるべきだという考えに基づくものでもありました。

■資金調達のためのクラウドファンディングの実施

今回の再演は、チェルフィッチュのこれまでの公演のなかでも最大規模の劇場である世田谷パブリックシアターとの提携のもと実施されることになりました。しかし、より規模の大きな劇場での公演を実施するにはより大きな予算が必要となります。チケット料金の値上げを避けつつ、チェルフィッチュが『消しゴム山』初演から継続して取り組んできた鑑賞サポートを含め、プロジェクトを充実したかたちで実現するための新たな資金調達の手段としてクラウドファンディングに挑戦することを決めました。同時に、クラウドファンディングの実施を通じて、これまでチェルフィッチュの作品に触れてこなかった方も含めより多くの方々にチェルフィッチュの取り組みを知ってもらうことも目指しました。
一方でこのクラウドファンディングは、アーティストのキャリアに応じた資金調達方法の模索でもありました。再演への助成金は多くはなく、また、一定のキャリアを積んだアーティストが獲得できる助成金にも限りがあります。アーティストが継続的かつ発展的な活動を展開していくためには、ステップに合わせて新たな資金調達の方法を開拓していく必要があります。

■環境負荷を考慮した舞台美術の見直し

演劇業界において、舞台美術の廃棄による環境負荷は喫緊の課題です。「人間的尺度を疑う」ことを掲げる『消しゴム山』という作品にとっても、舞台美術として使用する膨大な数のモノによる環境負荷をいかに軽減するかは大きな問題でした。今回の再演にあたっては、舞台美術やその調達手段を見直し、初演時に使用していた舞台美術を別のものに代替し、あるいは美術協賛の募集やレンタルの利用などの施策を通じて、舞台美術の廃棄による環境負荷を少しでも軽減することを目指しました。その結果、美術協賛としてスポーツ用品店・テニススクール・陶管業者から現物提供を受け、またクラウドファンディングでは舞台美術をリターン品として提供しました。

■アクセシビリティの設計と当日運営

今回の『消しゴム山』再演のアクセシビリティにおいては、precogがTHEATRE for ALLなどこれまでの事業を通じて蓄積してきた知見を最大限活用するとともに、視覚障害当事者の方にも準備段階でフィードバックをいただきながら設計を行ないました。具体的には、以下のようなことに取り組みました。

・日本語・英語字幕(舞台上オープン)
・介助者1名無料
・車椅子エリアの設置(定員あり、要予約)
・通路側座席予約受付
・補助犬 同伴受入
・託児サービスの実施(定員あり、要予約)
・筆談対応
・耳栓貸出対応
・ロビーにてリラックススペースの設置
・視覚障害者向けタッチツアーの実施(6/8(土) 11:30〜12:00)
・上演中ウィスパリング歓迎の回の設定(6/8(土) 13:00公演のみ)
・鑑賞マナーハードル低めの回の設定(6/9(日) 13:00公演のみ)

また、クラウドファンディングの実施にあたっては「より多くの人に作品をひらいていく」ことを掲げ、鑑賞サポートのための資金の一部をクラウドファンディングで調達するとともに、その実施を通して鑑賞サポートの取り組みをより多くの方に知っていただくことを目指しました。
公演の運営においては、段差や車椅子用のルートを事前に現場にて確認するなど、現場の状況に即した対応を実現するための入念なアクセシビリティ設計を行ないました。会場内では通常の世田谷パブリックシアターのスタッフによる案内に加え、リラックススペースやタッチツアーなどの案内にprecogのスタッフを配置することでよりきめ細やかな対応を実現しました。


<リラックススペースや会場の様子>

■作品鑑賞をより豊かなものにするための施策の実施

『消しゴム山』の再演は、作品を通して様々な立場や考え方の人々が出会い、ともに新たな角度から世界を捉え直してみる場を共有することを目指したものでした。今回の公演では思考を深め、作品鑑賞をより豊かにするための施策として、開演前の作品解説、関連書籍の販売、ロビーへの感想ボードの設置、次世代の舞台芸術を担う若者向け招待、視覚障害のある方を対象にした開演前のタッチツアーと終演後の意見交換会などを実施しました。


<左から、作品解説の様子、関連書籍の販売、感想ボード>


<タッチツアー、その後の意見交換会の様子>

成果

■再演の実施による作品受容の変化

初演では実験的な取り組みが拒否反応を生み、上演の途中で退席する観客も見られた『消しゴム山』ですが、今回の再演では、作品の描き出す世界を自分ごととして受け取った感想が多く見られました。観客としての私たち、あるいは社会の側の変化を映し出すものとして『消しゴム山』を再演できたことは今回の事業の大きな成果です。
また、今回の再演では作品の内容に関する取材に加え、上演中ウィスパリング歓迎の回や鑑賞マナーハードル低めの回などアクセシビリティに関連した取材もありました。precogでは今後も継続的な取り組みを通じ、アクセシビリティのさらなる充実と認知向上を目指していきます。

■クラウドファンディングの実施による資金調達と認知向上

今回の公演ではクラウドファンディングを通じ、34名の方にご支援をいただき、鑑賞サポートをはじめ様々な施策を実施することが叶いました。また、クラウドファンディングの実施を通じ、様々な方にご支援の声をいただき、チェルフィッチュの取り組みをこれまで以上に多くの方に知っていただくことができたのも大きな成果です。

■多様な観客へのリーチ

今回の公演ではタッチツアーをはじめとする様々な鑑賞サポートや「次世代の舞台芸術を担う若者向け招待」の実施により、これまで以上に多様な観客に作品を届けることができました。「上演中ウィスパリング歓迎の回」「鑑賞マナーハードル低めの回」やリラックススペースの設置により、お子様とその保護者の方にご来場いただける環境を整備できたのも今回の公演における大きな成果です。

ギャラリー

広報制作物

メディア掲載情報

プレスリリース

関連アーティスト

関連プロジェクト

関連ショップ

関連@オンライン

クレジット

作・演出:岡田利規
セノグラフィー:金氏徹平
出演:青柳いづみ、安藤真理、板橋優里、原田拓哉、矢澤誠、米川幸リオン

衣裳:藤谷香子(FAIFAI)
照明:髙田政義(RYU)
音響:中原楽
映像:山田晋平(青空)

技術監督:鈴木康郎
舞台監督:湯山千景、川上大二郎
演出助手:和田ながら
英語翻訳:アヤ・オガワ
プロデューサー:水野恵美、黄木多美子(以上、precog)
プロダクションマネージャー・広報:遠藤七海

照明オペレーター:長坂有紗(RYU)
音響オペレーター:安藤誠英
音響アシスタント:上島由起子
映像オペレーター:齊藤詩織(青空)
舞台監督助手:松嶋柚子
大道具製作:大津英輔
字幕オペレーター:張藝逸
票券:堀朝美
アクセシビリティ設計:兵藤茉衣(precog)
アクセシビリティ調査・運営サポート:THEATRE for ALL事業部(precog)|篠田栞、箕浦萌、田澤瑞季、林 芽生、西多恵子、清水恩
アクセシビリティ企画協力:中川美枝子、真しろ

写真(メインビジュアル):守屋友樹
広報ライティング(クラウドファンディング):山﨑健太
宣伝美術:有佐祐樹
特設ウェブサイト制作:HAUS
SNS広報:星茉里(precog)
記録撮影:小仲やすえ

当日運営:石川佳音、陳逸君(以上、precog)、神田圭美、齊藤実雪

主催・企画・製作:一般社団法人チェルフィッチュ

共同製作:
〈消しゴム山〉KYOTO EXPERIMENT、Wiener Festwochen、Festival d’Automne à Paris、Künstlerhaus Mousonturm Frankfurt

〈消しゴム森〉金沢21世紀美術館
*本プロジェクトは、『消しゴム山』(初演:2019年10月KYOTO EXPERIMENT)、『消しゴム森』(初演:2020年2月金沢21世紀美術館)の両バージョンからなる。

提携:公益財団法人せたがや文化財団 世田谷パブリックシアター
後援:世田谷区
美術協賛:株式会社リンドスポーツ、テニススクール・ノア 世田谷桜新町校、トーヨー産業株式会社、大好製管有限会社
協力:コネリングスタディ/山吹ファクトリー、急な坂スタジオ、京都市立芸術大学、公益財団法人セゾン文化財団、山口英峰
京都芸術センター制作支援事業
助成:芸術文化振興基金助成事業、公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京【東京ライブ・ステージ応援助成】、公益財団法人全国税理士共栄会文化財団

企画制作:株式会社precog
 エグゼクティブプロデューサー:中村茜
 アドミニストレーション部:斉藤友理、福本さくら、河野真紀、松本綾香、平岡久美、齊藤浩子、岩井美菜子

クラウドファンディング支援(支援日時順)
飯島恵里子、山本晃久、手塚優、有吉絢香、田中泰子、佐藤薫、山本英司、柴田隆子、THEATRE for ALL、株式会社 precog、水野久江、長久允、和田麻子、杉田聖司、石原眞弓、tomoko umemoto、千葉由美子、金子遥洵、沖野佳、山本ジャスティン伊等、吉﨑有希絵